平成30年6月号

「日本人の心の歌」

 或る日、或る本屋で、或る本を手にした。
 本のタイトルは、「童謡・唱歌・わらべうた」。
 何気なくその本を手にし、何気なく本を開いた。懐かしさが一気に込み上げてきた。気がつくと、何気なく"あかりをつけましょ ぼんぼりに""屋根より高い鯉のぼり"等々を口ずさんでいた。子どもの頃から慣れ親しみ、大脳の記憶分野に刻み込まれた童謡が口を衝いて出たのだ。
 本を手にし思った。
 私たちの年代なら、誰しもが当り前のように口ずさめる歌。私たちが子どもの頃、否、母のお腹にいた頃から5~6才頃までの間に、母から、そして祖母から童謡や昔話など、知らず知らずのうちに歌い、諳(そら)んじられるようにして貰い、9~10才頃には、何となく歌詞等の内容が分かり、そして、今の今まで、ずっと記憶の格納庫に保管されてきたからに他ならない。
 私たちはこのように、童謡や唱歌、わらべうた等から日本の四季の移ろい、行事等を通し、明治・大正・昭和の暮らし、日本語の美しさなど、一言で言えば、「日本人の心」に出会い、学びとることができたのだと思っている。でも、よくよく考えてみると、これらの歌をどう区別するのか、また全部で何曲あるのか等、分からないことばかり。
皆さんも同じ疑問をお持ちではないかと思い、調べてみた。 まずは小手試し。次の3曲の歌名と、どれが童謡で、どれが唱歌、わらべうたか考えてみて下さい。6月を代表する歌です。
● あめ あめ ふれふれ かあさんが 
   じゃのめで おむかえ うれしいな
   ピッチ ピッチ チャップ チャップ ラン ラン ラン
● でんでん虫々 かたつむり
   お前のあたまは どこにある
   角だせ 槍だせ あたまだせ
● ほ ほ ほたるこい
   あっちのみずは にがいぞ
   こっちのみずは あまいぞ
   ほ ほ ほたるこい

 そう、もうお分かりですね。順番に、童謡「あめふり」、次に唱歌「かたつむり」、そして最後は、わらべうた「ほたるこい」ですね。
 なお、それぞれの歌の総数については、いくら調べてみても分からずじまい。たぶん、何百、何千もの歌があるのだろうということは容易に推察できる。
 また、私自身、どれ位の歌を知っているかを調べてみた。この本に収録されている歌は、童謡、唱歌、わらべうたの総数で230作品。そのうち童謡61、唱歌42、わらべうた31、合計134作品を数えることが出来た。
 そして次に、数ある童謡等をどう区別しているのかを、それぞれの歌の成り立ちを通し、説明してみる。
 まずは、「唱歌」~唱歌と童謡は、共通することも多いが、専門家の間では、明確に区別されている。唱歌は、明治から昭和前期にかけて、子どもたちに音楽の基礎を教えるために、学校が用意した歌曲。明治初期の日本人は、ドレミの西洋音階で作られた歌を殆んど知らず、そこで、あらゆる面で西洋に追いつくことを目標にしていた時の指導者達は、まずは、学校の授業で、子どもたちに西洋の曲を歌わせることにした。そこで教える歌が「唱歌」と呼ばれるようになったという。この本では、代表的な歌、69曲が収録されており、私の好きな「朧(おぼろ)月夜(づきよ)」、「故郷(ふるさと)」の名曲も含まれている。
 次に「童謡」~大正期、在野の詩人等が、「いまの時代」の情景や「いまの子」の心情を綴った歌を次々に作ったものが、日本の近代音楽史における「童謡」となる。奇しくも、今年は童謡が日本に誕生して丁度100年になる。100年前の1918年(大正7年)、児童文学者 鈴木三重吉氏によって、児童文学誌「赤い鳥」が創刊され、「子どもの純性を育む芸術性豊かないい作品」を作ろうと、北原白秋や芥川龍之介等の詩に旋律が付いて、歌となったものを童謡と呼ぶようになる。この本には、100曲が収録され、「赤とんぼ」、「ぞうさん」等々の童謡がすぐさま、脳裏に浮かぶ。
 そして最後は「わらべうた」~昭和の中頃まで、日本の子どもたちは、子どもならではの歌を、日々の暮しの中で口ずさんでいた。例えば、毬で遊ぶ子は、手毬り歌を、子守する子は子守り歌等が、どこからともなく生まれた。こうした歌は、「わらべうた」と呼ばれ、子どもたちに愛され、歌い継がれてきたのである。この本には「わらべうた」62のうたが収録され、「かごめかごめ」、「あんたがたどこさ」等々が懐かしく思い出される。
 この他にも、意外というか、私自身の無知さ加減もあってか、今まで日本独自の童謡等と思っていた歌が、実は、外国の歌だったという歌が数多くあることも分かり興味深い。ここでは、この歌が?と思える歌のみを列挙してみる。「大きな栗の木の下で」(アメリカ童謡)、「「幸せなら手をたたこう」(アメリカ民謡)、「線路はつづくよ どこまでも」(アメリカ民謡)、「ぶんぶんぶん」(ボヘミア民謡)、「蝶々」(スペイン民謡)、「蛍の光」(スコットランド民謡)等々、実に多くの世界の愛唱名歌が日本で親しまれている。
 さて、ここまで、つらつらと童謡、そして唱歌、わらべうたについて書かせて頂きました。今、これらの歌に触れ、あらためて思うことは、「先人たちはなんて素敵な歌を遺してくれたんだろう」ということ。歌に描かれている情景や、日々の暮らしぶりを感性光る言葉で「日本人の心」を表現する童謡、そして唱歌、わらべうたの数々は、「日本の宝物」。私たちが、これらの歌をもう一度見つめ直し、守り、伝えることを約束しながら今月の私の一言といたします。

問い合わせ先

このページに関するお問い合わせは矢吹町です。

アンケート

矢吹町ホームページをより良いサイトにするために、皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。
なお、この欄からのご意見・ご感想には返信できませんのでご了承ください。

Q.このページはお役に立ちましたか?
スマートフォン用ページで見る